
講座7日目は、モンテッソーリ教育の中で最も特徴的な感覚教育です。
ピンクタワーや円柱さしなど、モンテッソーリ教育といえばこれと言えるようなものが登場します。
6日目以前についてはこちら
感覚とは何か
モンテッソーリ教育における感覚とは視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚をあわせた五感のことです。
人間を入出力機器に例えると、外界にある情報を脳に伝えるためのインプット器官がこれにあたります。
これが豊かな人のことを感受性豊かというような言い回しで表現することがありますね。
インプット器官である五感が働き、得た外界の情報は脳で認知されます。
その内容に応じて、脳は全身の筋肉を動かし運動や言葉といったアウトプット行動を行うというのが一連の処理の流れです。
すなわち、感覚器官は認知して、運動や言葉にすることを繰り返して、研ぎ澄まされていきます。
感覚の敏感期
外界にあるものに対して、見たい、聴きたい、触りたい、嗅ぎたい、舐めたいといろんな欲望を発揮するのが感覚の敏感期の現れです。
これらの衝動をうまく利用して子どもから集中を引き出し、運動や日常生活の練習を促そうとする環境づくりを行なっていきます。
そして、感覚自体の発達を促す環境を整えるのは2歳半頃になってからです。
2歳半までは、周囲にある感覚との関わり合いを溜め込むだけであって、その感覚情報を整理し秩序立てて行くのはそのあとの段階になってからなのです。
モンテッソーリの感覚教具
モンテッソーリの感覚教具は、大人が見ただけでも非常に特徴的です。
すなわち、大人の感覚にも強く訴えかけてくるのだということです。
その大きな要因は感覚の孤立化という概念を強く意識して作られているのです。
今の世の中は、人間の感覚を刺激するものに溢れています。
人間は感覚を刺激されることが大好きであり、それを快感に感じます。
テレビで次から次へと視覚や聴覚を刺激するような映像が流れてきたり、ショッピングモールでは色とりどりの商品やレストランが五感全てを刺激します。
これはひとえに五感に多大な刺激を受けた人間は感覚が麻痺し、いともたやすく購買行動をとるからです。
以前には似たようなことを書いたことがありました。
感覚の孤立化とは、教具の一つで刺激する感覚は1つ(多くても2つか3つ程度)に絞るということです。
子どもは大人よりも情報を処理する器官である脳がまだ発達しておらず、大量の情報の刺激に対して感覚が麻痺しやすい傾向にあります。
だからこそ、子どもに与える教具(おもちゃ)は必要な感覚を最小限に絞り、かつダブりがないように環境から切り出したものがモンテッソーリ教具には揃っています。(全部で21個)
今回は、それらの教具のうち0-3歳で利用される基本的な7個の教具を紹介します。
① 円柱さし(A, B, C, D)
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:長さ(A)、太さ(B)、大きさ(C, D)
モンテッソーリはイタリア人なので、当時の家庭には小麦の重さを測るための分銅がおいてありました。
なので、それを意識して作られた教具だと言われています。
10個の形が揃った円柱を穴の空いた土台に対応するようにはめていく教具です。
長さ、太さ、大きさの違いごとにA〜Dの4タイプが用意されていて、円柱の太さが同じで長さだけが違うA、長さが同じで太さだけが違うB、長さと太さが違うCと、同じく長さ太さが違い変化が逆順のDがあります。
モンテッソーリ教育において、最も基本的な感覚教具であり、穴のはめ方を間違うと10個全てをはめることができないという誤り訂正の機能を備えていますので、最初に提示されることが多いです。
② ピンクタワー
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:大きさ
ヨーロッパによくある、教会の塔を意識して作られた教具です。
ピンク色の全く同じ形をした立方体10個から構成されています。
最も大きな10cm立方体から各辺の長さが1cmずつ短くなっていって、最も小さいサイズは1円玉の半分の1cmと非常に小さい立方体です。
大きいものから順番に積み上げて使うのが基本的な使い方です。
③ 茶色の階段
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:太さ
階段を意識して作られた教具です。
長さが一定で、側面の正方形の1辺が10cmから1cmまで短くなる10個の茶色い直方体で構成されています。
太いものから順に並べて階段のようにして使います。
④ 長さの棒
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:長さ
パイプオルガンを意識して作られた教具です。
長さが1mから10cmまで、10cm間隔で短くなって行く10本の赤い棒から構成されています。
最も長いものから順番に並べて使います。
⑤ 色板(3色、11色)
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:色
シルクの糸巻きを意識して作られた教具です。
各色2枚ずつの板が箱に収められています。
一つは赤・青・黄の3原色、もう一つはそれにバリエーションを加えた11色からなります。
同じ色が2枚ずつ入っているので、ばらばらに並べて同じ色をペアリングする使い方をします。
⑥ 色つき円柱
- 感覚器官:視覚
- 興味の対象:色、長さ(青)、太さ(赤)、大きさ(黄, 緑)
色のついた円柱が収められています。
それぞれ円柱が10個ずつ収められており、円柱さしと同じように変化する要素(長さ、太さ、大きさ)に応じて4色に色分けされています。
土台はなく、平面に並べておいてその要素の変化を観察して使ったり、異なる色の円柱を重ねたりして使います。
⑦ 触覚板
- 感覚器官:触覚
- 興味の対象:粗さ
ひとつの木の板の上に、ざらざらとすべすべの面が区切られて設けられています。
それぞれの面をさわって手触りの違いを確かめます。
使い方
感覚教具の使い方は、タワーを積むとか、順位づけて並べるとか教具ごとに色々なやり方がありますが、全てを通じて大まかに3つの動作に分けることができます。
同じ教具でも異なる使い方ができたりするので、以下の3つの使い方を意識しておくと幅が広がります。
ペアリング(対にする)
ある要素が同じものをセットにして近くにおいたり、並べたりします。
『同じである』ということを意識づけることができます。
例 円柱を対応する穴に入れる、同じ色の色板を横に並べる
グレーディング(段階づける)
ある要素が段階的に変化していくことがわかるように順位づけします。
『規則的に変化している』ことを意識づけることができます。
例 ピンクタワー、茶色の階段、長さの棒を順番に並べる
ソーティング(分類する)
ある要素が同じ、似ている複数のものをグループに分ける。
『同じものと違うもの』のグループを意識づけることができます。
例 何パターンか重さの違う板をパターンごとに分類する
まとめ
モンテッソーリの感覚の捉え方は極めて分析的です。
大きいとはどういうことか、長いとはどういうことか、といった言葉では説明しづらい要素を視覚的に環境から切り出して整理することを助けます。
モンテッソーリの他の教育分野とも違って、明確に定められたレギュレーションの教具を使うべきと言われているのも感覚教育の特徴です。
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