
モンテッソーリ教育講座の最終日は、美術や音楽に代表される芸術分野の活動についての学習です。
芸術とはひとことで言ってしまえば、言葉以外の方法で自分を表現する方法であり、身振りや手振り、表情、動作、色、形、音などによる表現です。
この分野は世界的にみて日本人は苦手と言われており、ビジネスの領域でも日本人は何を考えているかわからないと諸外国の方々から不思議がられたのも、この領域を練習する機会が教育現場であまり与えられなかったからではないでしょうか。
学校での美術は絵が上手い人が評価される傾向にありましたし、音楽はいかに先生に従順だったかどうかが評価されていたような気がしますが、モンテッソーリ教育における芸術ではその技術的な側面よりも『表現することの尊さ』そのものに目を向けます。
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大人の接し方
表現をためらわないために重要となるのは、大人の接し方です。
0-3歳の子どもが、保育園などで絵を書いたり何かを作ったりしてくることはよくありますよね。
そんな作品をみたときに大人はなんと言ってあげればよいのでしょうか?
「あら?これはなにかな?うさぎさんかな?」でしょうか。
それとも「上手だねー!えらいえらい!」でしょうか。
残念ながら、どちらもNGです。
いずれも、「何か意味のあるものを描かねばならない」「上手に描かなければならない」という心理的プレッシャーを子どもに与え、表現を抑制する方向にはたらくからです。
描くことに関する発達の段階
まずは、描くことに対する子どもの発育段階を知識として身につけておかなければなりません。
擦画期:こすりつけ
1歳頃の幼児は擦画期と呼ばれ、まだ「描いている」というよりは「こすりつけている」に近いです。
この時期の興味の中心は、自分の腕と手が動いた軌跡が色のついた線となって現れることにあり、そのプロセス自体に楽しみを覚えています。
何にでも描いてしまうので、大人から見るとラクガキにしか見えません。
だから、ついついやめるように言ってしまうのですが、すでに表現したいという欲求が表に出ているんだということを理解しましょう。
錯画期:描くことへの興味
2歳半ごろまでは錯画期と呼ばれ、描くことの初期段階となります。
この頃もまだ、ものを見て描いていません。
まず叩きつけるような点で描くことから始まり、短い線、らせん状の円への移行していきます。
だんだんと描かれる形状が気になるようになってきて、そのプロセス自体を楽しむようになります。
ですから、この時期の子どもにとっては「たくさん描けたね」とか「力強い線だね」などといった声をかけてあげることがいいでしょう。
象徴期:形状の意味づけ
渦巻き状の円だったのが、徐々に独立した円となり、それぞれに「ママ」「パパ」などといった意味をつけて表現するようになります。
とうそく人と呼ばれるただの円に棒で手足を描いた胴体のない人を描き始めるのもこの時期です。
その後
5歳ごろまでになるとはじめて、実際にあるものの輪郭をまねて描くことができるようになってきます。
さらに成長すると、絵に場面設定やストーリーなどの背景説明が入ってくるようになり、最終的には立体を平面に開いたような描き方をする展開描法がみられるようになってきます。
表現のためのツール
色のつけられるものであれば、なんでも構わないのですがクレヨン等以外でよく使われるものをいくつか紹介しておきます。
フィンガーペイント
手に何かを持つ必要もなく、1歳くらいのお子様からでもできます。
舐めてしまっても大丈夫なような植物性の絵の具を使いましょう。
フィンガースタンプ
100均などで売っているスタンプ用インクに指をつけて、指の腹でスタンプを押すように絵を描いていきます。
ドット絵のように色をつけていきます。
これも、手に筆を持つ必要がないので簡単です。
イーゼル
これは台紙の方ですが、幼児は平面においた紙に描くというのはやりにくいので、できれば黒板のように地面に垂直に立っているところに描くほうがかきやすいのです。
壁に描いてしまうのはそのせいだと思います。
ポストイット形式のイーゼルパッドなんかでもいいでしょう。
小麦粘土
近年主流の、小麦でできた粘土です。
主成分が小麦・水・塩ですので、口に入れても大丈夫です。
つぶつぶ粘土
ビーズルとも呼ばれ、ビーズが入っている粘土で近年人気が急上昇しているようです。
粘土とはやや違ったぷちぷちとした不思議な触感ですが、ちぎったりくっつけたり粘土的に使うことができます。
小麦粘土と違って、開封した状態でも乾燥しませんので扱いやすいです。
キネティックサンド
こちらも有名どころの、あまり飛び散らない砂です。
取り扱いが難しい砂ですが、キネティックサンドであれば室内でも扱いやすいです。
ただし、水分には弱いです。
石
本物の石です。
道端の石ころも、なめらかで手頃な大きさのものであれば立派なキャンパスになります。
花
アジサイの花など、季節の花です。
そのまま貼ったり、乾燥させたりして使えますね。
クッキー
食品も表現の道具になります。
お菓子づくりが趣味の方は、一緒にクッキーを焼いてもいいでしょう。
雪
雪国に住んでいなくても、年に一度の大雪があったりしたら嫌がらずに外に連れ出しましょう。
冷たい感覚も、また新しい発見になります。
まとめ
最も大事なのは大人の接し方ですが、注意すべきなのは芸術の分野は運動機能以上に個人差が激しいということです。
表現に接する機会が少ないと、人によっては小学校に入ってもまだここに書いたような表現ができない子もいますがあまり気にしないことです。
クラスの子どもたちが描いたり作ったりした作品が一斉に展示されたりしますが、その表現は人それぞれ。
どれが上手いか下手かというのは大人の評価軸なので、子どもたちには関係ないのですね。
どうしても他人と我が子を比較してしまいがちな人は、他の子の展示作品はあえて見ないほうがいいかもしれませんね。
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