
モンテッソーリ教育講座も4日目あたりから体調を崩してしまい、体力温存に勤めつつ後半は一気に終わってしまいましたので、振り返って書くことにします。
4日目は真夏の毎日6時間の講義のダメージが徐々に蓄積されてきていたころです。
パイプ椅子が痛い……
3日目以前についてはこちら
運動に関する教育
運動は0-3歳の期間のうちで最もウエイトが大きいといってもよいでしょう。
0-3歳初期の運動は、体全体を使った大きな動きの粗大運動と指先など細かい動きの微細運動を段階的に習得していきます。
粗大運動に必要な環境
粗大運動の完成は安定した歩行という明らかに目に見えるかたちで出てきます。
ですので見た目にもわかりやすいですね。
3歳以降になると今度は、この動きを洗練させていく段階に入っていきます。
前後左右にジャンプしたり、スキップをしたりというようなアクロバティックな動きです。
0-3歳の粗大運動は環境論でも述べた通り、子どもの成長段階に応じて「新生児状態」「ずり履い後」「つかまり立ち後」「歩行開始後」「歩行完成後」という5段階にあわせて環境を変化させていく必要があります。
新生児のころから順番に、モンテッソーリ教育に登場する特徴的な用具を紹介していきたいと思います。
モビール
モビールとは、天井などに吊るしてゆらゆらと動く用具のことです。
4種類ありますが、発達段階ごとに明確に目的がわかれています。
ベビーメリーと位置付けが似ているのですが、大人の目に優しいというのではなくあくまで子どもの目線で作られていることが特徴的です。
基本的には、目で追ってもらうことで色々なからだの動きを誘発することを目的としています。
① 明暗と光(新生児)
白黒で描かれた幾何学模様の図形を吊るします。
新生児の目はほとんど見えておらず、色彩の区別もできません。
そのため、彼らの注意を引く明度が最も高い色と低い色、すなわち白黒のみで彩色されています。
大人目線から見ると随分と地味ですよね。
子供の見ている世界と大人の世界は随分違うんだなと考えさせられる一品です。
光の反射 にも敏感に反応するので、光を反射できるガラスなどの素材が揺れ動くとそれに反応します。
このような物体を幼児の目線の先約20-30cmあたりに設置します。
最初は目のピント調節もできないので、配置する高さにも注意します。
② 濃淡と距離(新生児)
白黒の次は、同系統の色で段階的に濃淡を分けた物体を連なるように配置します。
濃いものから薄いものへと、徐々に高さが変わっているのが特徴です。
新生児は最初、一点にしかピントが合わせられないのですが、徐々に奥行き方向にピント調節が可能になってくるので、目で追う頻度が高くなってきたら使い始めます。
濃淡で高さが違うので、目のピント合わせにさらに慣れてもらうことと、首を動かす機会を増やすことで首のすわりを早くします。
③ 凹凸(ずり這い〜歩行の完成)
「まり」が吊るされています。
球形ですが、凹凸がついていてつかむことができるようになっています。
「つかむ」ことと「はなす」ことは対になる動作ですが、成長の段階としては「はなす」ことの方が高度なので、つかんだままひっぱっても大丈夫なように、釣り下げ部分をゴムバンドなど伸縮性のある素材で作ったりすることもできます。
「つかむ」というのは、何か「手に入れる」ことを連想させますが、手放すことの方が難しいというのは人生における教訓的なものに相通ずるものがあります。
中に鈴を入れておくと、動くたびに音が出るので注意をひいて運動を促します。
④ リング(ずり這い〜歩行の完成)
つり革のようなプラスチックの輪っかがついたものです。
「まり」が球形で、掴める場所がたくさんあったのに対して、リング形状ですとつかむのが2方向からしかできないので、より難しくなります。
大きな鏡(新生児〜ずり這い)
横方向に大きな鏡です。
新生児は。周囲の動きを目で追うので、自らの動きが鏡に反射して目に飛び込んでくるとそれを追視するようになります。
つまりは自分の姿を見るためではなく、動くものを検知する機会を増やし、目で追ったり、体を動かすきっかけとするのが目的です。
登り台、階段(ずり這い〜歩行の完成)
高低がある段差を用意して、段差の上り下りに慣れてもらうのに使います。
幼児は階段が大好きですよね。マンションなどで家に階段がない家庭でもこれを思う存分楽しんでもらいます。
登り台の1段あたりの高さは10cmくらいです。
階段に手すりがあれば、ずり這いをしている間にバーに手を伸ばしたりしてつかまり立ちの練習にもなります。
また、つかまり立ちができるようになってからも階段を登る際に一瞬片足立ちになるような姿勢のバランス感覚を習得するのにも役立ちます。
段であればなんでもいいと思うので、ダンボールの箱なんかでも作れるでしょう。
重いスツール(つかまり立ち〜歩行の完成)
前回も紹介したものです。
スツールの周りをカニ歩きでぐるぐる回ったり、ずって押して歩いたりします。
40cmくらいのちょうどいい高さであることと、重くて簡単には倒れないということがポイントです。
歩行は横歩行→前方歩行という順番で習得していきますので、これの両方に慣れてもらうことが目的です。
ずって押して歩くことができれば、段差のない部屋の中はどこでも移動できるようになって、行動範囲が格段に広がります。
キオスクとバー(つかまり立ち〜歩行の完成)
キオスクというのは簡易的な構造物のことで、つかまり立ちをしている幼児がホッと一息つけるところというような意味合いです。
バーを使むのは、壁やスツールに捕まるのと違って手のひらで掴む動作が加わるので一つ難易度が上がります。
また、連続する面だけではないので、一瞬だけ両手を離す必要性が出てきたりと、自然と自立歩行の練習になります。
粗大運動の用具は大掛かりなものが多いので、家庭では用意しなくてもいいと思いますが、これらの要素を備えた家具の配置などに気をつけておくと、子どもが自然と練習を積むことができるようになります。
なお、歩行が完成したらこれらの用具は不要になります。
微細運動の種類
お座りが完成されると、姿勢を保つのに手を利用する必要がなくなり、周りの環境にある物に対して、手を使って積極的に関わっていくことができるようになります。
なので、微細運動とは基本的に手(腕と手のひら、指)の使い方ということになります。
微細運動については、動作の基本要素を紹介します。
にぎる
握るのは最も基本的な微細運動で、その握り方も多岐にわたります。
最初は新生児期に手のひらに指をおくと自然に握りますが、これは反射による反応であって意思で握っているわけではありません。
それが発達の段階に応じて欲しいものに手を伸ばす、握って把握する、はなすという意思をもった動作に変わっていきます。
幼児はとりあえずなんでもにぎってまわるので、それを利用して握ったまま持っていると何かしらの感覚反応があるもの(多いのは音がなる)を用意しておきます。
代表的なのはガラガラです。
ガラガラにもいろんな種類があって、振って音が出るもの、スナップをきかせるもの、特定方向にのみ古物、手首を回転させるもの……とたくさんあります。
どの部分の動きを促進するものなのか、考えて被らないように用意することがポイントです。
また、素材も木材や金属など触ったものの感触が違うように変えるとよいでしょう。
つまむ
親指の腹と、それ以外の4本の指の腹をあわせる動作です。
親指と人差し指の2本を使ったつまみ方が最も簡単で、あわせる指の本数が増えるとだんだんと難しくなっていきます。
日常生活でよく使うのは鉛筆やお箸を持つときに使う3本の指を使うものです。
つまむのはストローや楊枝を細い穴に通すものや、つまんであくタイプの小さな扉、パズルや円柱さしの小さな取っ手を持ち上げる際の動作で練習することができます。
押しこむ
押しこむ微細運動は指を使って一定方向に力を加え続ける動作です。
継続的に力を加え続けることでのみ反応するおもちゃがありますので、この辺を利用するとよいでしょう。
壁についているスイッチをカチカチやらせるのでもいいでしょう。
以下は押し込むことで無限にボールが出てくるおもちゃです。
ハンマーでたたく練習にもなります。
ひっぱる
つまんだりにぎったりしながら引っ張る動作です。
一番簡単なのは照明器具の引き手の延長してあげて届く高さに吊るしておくと、延々とカチカチやり続けます。
電気がついたり消えたりすると大変なので、問題なければ蛍光灯を外しておくか、抱っこしている間だけカチカチさせるというのでもよいでしょう。
持ち上げる
上方向に力を加え続けて持ち上げる動作です。
落ちているものをしょっちゅう触りますが、上に持っていきたくなるような工夫があるとよいでしょう。
こちらはよく見るトラッカーというおもちゃですが、下にあるボールを持ち上げて上の穴に入れて落とします。
その過程でしゃがむ→つまむ・にぎる→持ち上げる→はなす→立つ(つかまり立ち)とたくさんの動作が複合的に発生するので、とても良い玩具といえます。
つかまり立ちできるくらいしっかりしたものを選ぶと良いでしょう。
たたく
一度に大きな力を加えて、離す動作です。
叩いて音の出る木琴や、たたいて飛び上がる動きをするおもちゃなどがよいでしょう。
以下のおもちゃはハンマーでシーソーを叩くと、ボールが飛び上がってタワーから出てきて、らせん状に転がり出て元の位置に戻るので、無限ループで遊べます。
ひねる
指でつまんだものや、手のひらでつかんだものを回転させる動作です。
ボルトにナットを通すときや、ドライバーでネジをしめるようなときに使います。
それぞれ大きめのものを用意しておいておくと良いでしょう。
まとめ
人間の動きを分析すると、こんなにも多くの要素に分解できるというのが驚きですね。
モンテッソーリはほんとうによく子供を観察していたんだと思います。
うちの子は不器用だ、と思うことがあったのなら、どの動作がぎこちなくて足りていないのかよく観察して練習できる環境を整えてあげることが発達を助けることになるでしょう。
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