
仕事上、わたしの周りで起きる揉め事の中でもっとも多いのは「言った言わない」の問題です。
「言ったはずなのに伝わっていない」とか「聞いた記憶はない」といったことが原因で、時に人間関係まで崩れ始め、大の大人が険悪な雰囲気になったりします。
はたからみると子どもの喧嘩じゃあるまいしと思うような揉め事ですが、石原元都知事の豊洲移転判断が是非を問われたように、エリートの集まりと言われる都庁ですら起きる深刻な問題です。
わかってくれないの科学
伝えた側には、「声(もしくは書面)にして伝えた」という強い思いがあります。
同様に、聞いた側は「聞いていない」という強い思いがあります。
矛盾しているので、どちらかが嘘をついているはずなのですが、ほとんどの場合どちらも本当にそう思っています。
しかし、仮にその場面をビデオで録画していたら、おそらく伝える側はそのようなことを本当に声に出しては言っているでしょう。
あるいは書面だったら、それらしき記載が残っているでしょう。
裁判だったら、伝えた側が勝てるかもしれません。
しかし、人間関係は裁判ではありません。
言葉として声で発されていること、文字として書面に明記されていることが、相手に一字一句正確に伝わることはほとんどないという事実を、伝える側は理解しておかなければなりません。
認知バイアス
心理学の用語で認知バイアスという概念があります。
認知バイアスは、人間が五感で感じた情報を素早く理解するのを助けるショートカットの役割をもった脳の働きであり、本来は人間の意思決定を助けるためにあります。
しかし、この認知バイアスは、ある一定のルートの認知を強化すればするほど、普段と全く反対の意見を言われた時の反応が極端に鈍るという効果を産みます。
そして、その反対意見のどこかに、かすかに普段よく使う認知ルートに近い情報が混ざっていた場合、その情報が何倍にも増幅されて認知されます。
いわゆる早とちりです。
認知バイアスがある限り、人間の脳は直感的には自分に都合のよいことしか理解しないようにできています。
だから、目と目をあわせて面と向かって話していても、資料にじっくり目を通していても、その内容が一瞬で相手の腑に落ちるというところにまで至るのは、背景に共通認識がもてている時だけです。
すなわち、相手の価値観と少し違うことや、反対の意見を述べたりする場合、その意図がきちんと相手に伝わるのには長い時間と繰り返しが必要になるということです。
まとめ
相手の価値観と反対のことを伝えるときには、何度も繰り返す必要があって長い時間を要するということを、伝える側は覚悟しておきましょう。
口頭で何度も説明することでもいいですが、やはり文字にして反芻して読ませた方が、相手に伝わる時間を短縮することができると思います。
しかし、書面にしたからと言って鬼の首をとったように「それ見たことか」という態度をとってはそのあとの関係に支障が出ます。
あくまでコミュニケーションなので、そのあとも続く関係を維持することが最優先であることを押さえておきましょう。